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高松高等裁判所 昭和36年(く)1号 決定

少年 F(昭一八・九・二生)

主文

本件抗告を棄却する。

理由

本件抗告理由の要旨は、原決定は、「(イ)原決定は少年がK、A、Hと共謀して原判示の各窃盗の所為をなしたと認定しているが、少年は自ら品物を盗んだものでなく、他の三人の者が盗むときその側に居ただけであり、盗むという相談もしていないし、少年の知らぬ間に他の三人の者が盗んだものである。(ロ)少年は、本件直前に大阪へ出て働くつもりで親から金をもらつて家を出たが、その金を費い果し、家にも帰られないままにやむを得ず前記三人らと行動を共にしていたにすぎないものである。(ハ)本件において少年と行動を共にした前記、A、Sは少年院に送致されていない。(ニ)少年は、本件非行を充分に反省し、今後は真面目に生活して行く決意を固めているし、就職先も決定し、かつ知人の○野○郎、保護司の光田清美も少年の指導をしてくれるから、今後は非行を繰返さない。従つて、少年を中等少年院に送致する旨の決定をした原処分は著しく不当なものであるから、これを取消すべきである。」というにある。

しかしながら、一件記録を精査するに関係証拠によると、本件各窃盗行為につき、少年が直接の実行者でなかつたとはいえ、各共犯者らと事前に窃盗の意思を充分通じ合つていたものであり、かつ、少年も各窃盗が行われている現場にいて他の実行者の行為を容易ならしめるような行動をとつていることが認められるのであるから、少年に本件各窃盗行為につき共同正犯者としての責任のあることは勿論、本件各犯行に至るまでの経緯、犯行後の行動等に鑑みるときは、原決定も説示している通り、本件各犯行については、少年が相当主導的に動いた点が認められる。

少年は昭和三四年一〇月二日松山家庭裁判所において中等少年院送致の決定をうけ、四国少年院に収容され、同三五年一〇月一八日仮退院し、肩書住居に居たが、定職に就かないままに、二ヵ月足らずの間に本件非行に及んだものであり、かつその非行歴も一三才の頃から始まり、その回数も多い点等からして、少年の犯罪的傾向は相当固定しているものと認めざるを得ないし、その性格も、原決定が指摘している通り、多分に問題を包含している。その家庭環境についても、右のような少年を保護指導する能力は充分とは認められないし、他に少年に充分な矯正教育をなし得るような社会資源も見当らない。もつとも抗告理由には○野○郎が少年を指導するというが同人は原決定により少年が少年院に収容された後において現れたものであり、同人の指導力を過大に評価することは適当でなく、保護司光田清美についても、同保護司は少年が前記仮退院中の担当保護司であつた点を考慮すると、少年の指導を同保護司に依頼することにも疑問がある。

このように、少年の性格、経歴、環境、本件非行の内容、その他諸般の事情を考慮すると、抗告理由に主張するような諸点を勘案しても、少年を中等少年院に送致した原処分は著しく不当なものということはできず、その他一件記録を精査しても、原決定を取消すべき事由は見当らない。よつて本件抗告は理由がないから、少年法第三三条第一項によりこれを棄却し、主文の通り決定する。

(裁判長裁判官 加藤謙二 裁判官 小川豪 裁判官 石井玄)

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